成年後見人による居住用不動産の売却(前編)

精神上の障害などで判断能力が低下してしまった人を保護、支援する制度として、成年後見制度があります。その目的は、事理弁識能力を欠く本人に代わって、成年後見人が本人のために法律行為を行うことによって、本人の生活を保護、支援するところにあります。そのため、後見人の職務は本人の生活、心身の状態および生活状況に配慮し、本人の意思が尊重されたものである必要があります。

また、後見制度には、判断能力が低下してきた際に備えて、本人が判断能力のあるうちに事前に後見人を選び、後見契約を結んでおく任意後見もあります。


成年後見人は、事理弁識能力の乏しい本人に代わって、本人のために財産を管理しなければなりません。その為、成年後見人は本人の財産に関する法律行為に関して、包括的な代理権が与えられています。この財産管理には、本人の所有する不動産に関する売買契約、賃貸借契約、修繕請負契約なども含まれます。従って原則的に、成年後見人は自分の判断で本人の財産を処分することが出来るものとされています。ですが、本人の居住用不動産(建物、土地)の処分に関しては、家庭裁判所の許可を得ることが必要とされています。

成年後見制度において、成年後見人のもう一つの職務に身上監護というものがあります。身上看護とは、成年被後見人が適切に生活を行うことが出来るように、介護や医療、住居の確保などの「身の上」に関する法律行為を行うことを指します。こういった本人の生活を保護、支援するという観点からも、居住用不動産の処分に関しては、成年後見人の恣意的な判断のみで行うことは出来ず、家庭裁判所の審判が必要とされています。家庭裁判所の許可を得ずに行った処分は無効となります。

では、本人の居住用不動産とはどのようなものでしょうか。
居住用不動産とは、現に本人が居住の用に供している、または、現在本人は居住していないが、過去に生活の本拠としての実態があるなど、今後帰住する可能性のある住居および同敷地のことをいいます。それ以外の不動産を非住居用不動産といいます。

処分に含まれる行為としては、不動産の売却だけでなく、賃貸、賃貸借の解除または抵当権の設定、贈与や建物の取り壊し、増改築なども含まれるとされています。
例えば、居住用不動産を売却するには、成年後見人が家庭裁判所へ住居用不動産処分許可の申立てを行います。その際、売却の目的や事情を示して行うこととされています。家庭裁判所はこれを受けて、本人の財産状況や売却金額などの妥当性を見て、総合的な審判を行います。